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札幌地方裁判所 昭和58年(わ)397号 判決 1983年9月19日

裁判所書記官

舘山春男

本店所在地

北海道恵庭市柏陽町一丁目二〇番二

恵庭道路運輸有限会社

右代表者代表取締役佐々木藤雄

本籍

北海道恵庭市本町五四番地

住居

同市大町二五五番地の二六

会社役員

佐々木藤雄

昭和一八年四月一〇日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上隆久出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人恵庭道路運輸有限会社を罰金七〇〇万円に、被告人佐々木藤雄を懲役八月に各処する。

被告人佐々木藤雄に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人恵庭道路運輸有限会社(以下「被告会社」という。)は、北海道恵庭市柏陽町一丁目二〇番二に本店を置き、貸物自動車運送事業等を目的とする資本金五〇〇万円の会社であり、被告人佐々木藤雄(以下「被告人」という。)は、同社の代表取締役として業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの不正な方法によってその所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際総所得金額が六六五三万八四三一円であり、これに対する法人税額が二五七七万五二〇〇円であるにもかかわらず、昭和五五年五月二九日、札幌市豊平区月寒東一条五丁目三番四号所在の札幌南税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八〇九万九六五九円であり、これに対する法人税額が二三九万九六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額二三三七万五六〇〇円を免れ

第二  昭和五五年四月一日かな昭和五六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際総所得金額が二七一八万四六二四円であり、これに対する法人税額が一〇〇三万三六〇〇円であるにもかかわらず、札幌南税務署に対し、郵便官署消印が昭和五六年六月一日付の郵便により、その所得金額が四九三万一〇六七円であり、これに対する法人税額が一三八万〇六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を送付し、同月二日前記札幌南税務署にこれを到達させて提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額八六五万三〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人(被告会社代表者)の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する昭和五八年五月三、四日付供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和五七年八月三一日付のよび同年九月一日付質問てん末書

判示冒頭の事実について

一  登記官作成の登記簿謄本

判示第一および第二の各事実について

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和五七年九月二日付、同月二九日付、同年一〇月一九日付、同年一一月二四日付、同年一二月三日付、同五八年一月一九日付および同年三月四日付質問てん末書

一  阿部豪の検察官に対する供述調書

一  阿部豪(昭和五八年二月一〇日付)、片山繁、塚田邦雄、山田謹吾および高橋明弘の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  高橋明弘作成の答申書

一  大蔵事務官ら作成の「売上高調査書」および「当期商品仕入高調査書」と各題する書面

一  大蔵事務官作成の「期末棚卸高(運輸原価)調査書」、「給料手当 運輸原価)調査書」、「修繕費(運輸原価)調査書」、「減価償却費(運輸原価)調査書」、「給料手当調査書」、「賃借料調査書」、「租税公課調査書」、「受取利息調査書」、「雑収入調査書」、「支払利息割引料調査書」、「未納事業税調査書」および「損金計上役員賞与調査書」と各題する書面

一  検察事務官作成の昭和五八年五月四日付電話聴取書

一  押収してある法人税決議書一綴(昭和五八年押第一八二号の1)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」(昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度に関するもの)、「当期仕入高(運輸原価)調査書」、「外注費(運輸原価)調査書」、「賃借料(運輸原価)調査書」、「減価償却費調査書」および「車両費調査書」と各題する書面

一  大蔵事務官ら作成の調査事績報告書

判示第二の事実について

一  佐々木勝雄、永峯教行、佐々木宗幸および阿部豪(昭和五七年九月二日付)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」(昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度に関するもの)、「期首棚卸高(運輸原価)調査書」、「消耗品費(運輸原価)調査書」、「交際接待費調査書」、「保険料調査書」および「諸会費調査書」と各題する書面

(法令の適用)

被告会社の判示第一の所為は、昭和五六年法律第五四号「脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律」による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当し、被告人の判示第一の所為は、行為時においては右改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては右改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、右は犯罪後の法律により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い刑を定める行為時法を適用し、被告会社および被告人の判示第二の所為は、いずれも法人税法一五九条一項(被告会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人については各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内において罰金七〇〇万円に、被告人については同法四七条本文、一〇条により刑の重い判示第二の罪の刑に法定の加重した刑期の範囲内において懲役八月にそれぞれ処し、被告人に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予することする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が代表取締役をしている被告会社において、判示のとおりの不正な方法によって、二事業年度にわたり合計三二〇〇万円余りの法人税を免れたという事実であるが、そおほ脱税額は右のとおりの巨額で、そのほ脱税額率は約九〇パーセントと極めて高く、このような脱税の手段として、被告人は、架空仕入を計上し、その代金額を仮名預金にしたり、仕入商品の期末在庫を棚卸から除外するなどしたうえ、各期の決算において、関与税理士にその期に納税すべき金額を指示して決算操作をさせ、その所得を隠ぺいしたもので、その方法は極めて悪質であり、被告会社の利益を計る目的で国民としての納税義務に反し、右のような脱税を敢行した被告人および被告会社の刑事責任は重大である。

しかしながら、ほ脱した法人税および重加算税など国税については、被告会社において現在までに約三一〇〇万円を納付し、残余についても、今後納付する見込みであること、被告人は現在本件犯行を反省していること、被告人には前科前歴がないことなど被告会社および被告人に有利な事情もあるので、これら諸般の事情を勘案して主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判所裁判官 安藤正博 裁判官 下田文男 裁判官 秋葉康弘)

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